意志という根を張る葦

「人間は考える葦である」とパスカルが言うとき、人間は大海原に漂うプランクトンのような儚い存在を意味します。しかし、宇宙や大自然から見れば微細な命であっても、思考する存在という在り方に、彼は人間の尊厳を見出しました。あるいは、見出したと解釈されています。このパスカルの人間観、世界観に対し、アートを通して世界と繋がるSOPHiARTISTとして、私は新しい見解を提示します。

自然の生態系では、無機物や有機物、あるいはエネルギーは、日々私達の見えない所で、生産、消費、分解という活動を伴い循環しています。この自然の連鎖の中で、どんな小さなものでも、例え漂泊者のような命であったとしても、一つ一つの生命は生態系の中で何らかの役割を担い、世界の調和を支える一部として存在しています。
自然の一部として、ほとんどの生命が自然なかたちで何かしらの役割を担っている一方で、人間には、思考と行動を通して自らの役割を見つけ出す、創り出す、生々しい過程が存在します。役割を受け入れ、引き受ける意志を育むまでの人間的な、あまりに人間的な時間が必要なのです。このプロセスにこそ、人間の尊厳があるのです。競争も対立も争いも矛盾もすべてを包摂したこの過程に、私達は役割の意味を見出し、価値を創造するのです。そして、思考と行動に支えられた意志によってこそ、人は深く根を張り、広く根茎を伸ばし、中心無き世界の中で無数に他者と繋がりながら、新たな世界を創り出していくのです。
「人間は考える葦である。意志という根を張る葦である。」

自らの役割に出会う

人類の歴史の中で繰り返される悲劇のほとんどは、役割の取り違えから来るのではないでしょうか。思考や行動に十分な時間を費やさず、意志を醸成させる段階を経ず、あるいはものごとの構造、関係性、時宜を見誤り、目先の役割に飛びつき、疑うことなく突き進み、意思とは関係なく後戻りできなくなる。やがて、それぞれが自分の正義を振りかざし、無邪気なほどに使命に燃え、固定化された価値観に執着する。こうして、歴史の中で悲劇の誕生が、喜劇的に繰り返されてきました。

人生は、決断と行動の集積体です。しかし、時に私達は判断を中止する勇気を持たなければなりません。プロセスで耐え続ける強さを備えなければなりません。答えを疑う柔軟性を持ち、走りながら軌道修正を繰り返すしなやかさを身に着けなければなりません。これらはまさに、ＡＩ時代の人間の役割でもあります。すべての答えが今出るわけではなく、今の答えがすべてでもありません。自分の役割が必ずしも今見出せるわけでもなく、今の役割がすべてでもありません。
役割を取り違えないための批判的な思考と行動の日々が長く続けば、自己否定を伴う修正の日々にいつまでも終わりが見えなければ、やがて、朝の木漏れ日に目を背け、昼の喧騒に耳を塞ぎ、夜の静寂に口をつぐむことになるでしょう。しかし、いつか諦めを明らめへと昇華させ、無為自然の果てで風に踊るとき、私達は力への意志を見出します。それは歴史の、自然の一部として、ささやかでも尊厳ある自らの役割を引き受ける意志であり、覚悟です。この意志と覚悟が生まれたとき、私達は曙光の中で、決して取り違えることのない自らの役割に出会うのです。

SOPHiARTは、実践哲学・美的未来像・共有価値の理念に基づき、今という時代において、私達ならではの役割を全うします。競争も対立も争いも矛盾もすべてを包摂した調和の世界である自然と人間との関係性を捉え直し、１つでも多くの価値を創造していきます。

私達の役割と価値が、
いつか当たり前のものになる日を夢見て

2025年10月15日
ニーチェの誕生日に、沖田総司の墓前にて